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東町商店街 [地域]

秩父鉄道沿線には、あまり駅前商店街が形成されていない。秩父駅の前も荒川の方向に下っていく広い道が作られているが、繁華街が形成されているとは言いにくい。これは、秩父市の中心は秩父神社であって、秩父神社を中心に商店街が作られていったからと考えられる。秩父神社の許が本町であり、「本」町は本当は「許」町なのではと思うこともある。三峰の方向に上っていくから上町であり、上町と本町の間だから中町ということなのでないか。神社の横にあるから宮側町と考えると、まさに秩父神社中心に出来上がっている。
しかし、こう考えていった場合に東町はなぜ東町なのかということになる。秩父神社から見れば南であり、南町でもよさそうである。どうもここは、「町」を中心に考えられていて、本町、中町、上町という大通り沿いの「町」の東側にある町という意味合いと考えるとすっきりする。
東町商店街は、秩父鉄道沿線において希少な「駅前商店街」の顔を持つ。中町の東京電力の四つ角から、まっすぐに歩いていくと非常に狭い道路の両脇に、和菓子屋、文房具屋、お茶屋、氷屋など、多種多様なお店が並んでいたが、郊外の大規模店の影響もあり次第に店を閉めるところも増えてきている。この道をまっすぐ歩くとお花畑駅にでる。秩父駅に比べて、お花畑駅は小さいが、駅前商店街のある賑やかさが特徴であった。
昭和40年代、50年代は東町商店街も活気があり、若い人たちも多かった。小学校には、東町から来ている子供も多く居たが、そういう子供は必ずどこかのお店の子だった。子供が遊びに来て、東町の子だといえば、苗字を聞いて「ああ、○○屋さん?」と聞くのが定番であった。東町は、冬祭りの屋台は無いが、夏祭りには立派な屋台を出している。番場、宮側など、神社周辺の町は夏祭りに屋台を出す。夏祭りは、子供の祭りなのだが、侮ってはいけない。夜祭ほどの大きさではないが、これが本当に子供用か?と驚くほどの立派な屋台の数々を見ることができる。東町では近年、団子坂に屋台を登らせたり、たまに春の連休に屋台を引いたりしている。夏祭りの屋台は、冬祭りに比べると、春の連休などに公開される機会が多いので、催しをチェックされても良いかと思う。
東町には、駅前商店街という顔と、秩父神社の番場通りから続く門前通りの商店街という二つの顔がある。番場通りの続きという点では、食堂パリーや安田屋肉店などの昭和初期のレトロな建物につながる道も東町になるし、昔ながらの赤飯やいなり寿司を出す松村甘味食堂もこの通り沿いになる。以前は、東町といえば主婦の店(ベルク)東町店がある地域という一面もあり、かなりの賑わいを見せていた。当初「主婦の店」は、宮側店と東町店しかなく駐車場が十分あった東町店はいつも混んでいた。郊外に大規模店ができた現在は、当時ほどの賑わいではないが街の中心部の住民にとって心強い存在であることに変わりはない。
秩父夜祭の見せ場である「団子坂」も住所は東町になる。その団子坂を登って左手に「珍達そば」がある。さらにそこを歩くと小石川書店がある。小石川書店の店舗の横の路地を入っていくと、書店の事務所があるが、その事務所の壁には「旺文社LL教室」の看板が今も掲げられている。小石川書店は、旺文社LL教室の秩父教室を以前やっていた。大手フランチャイズ系英語教室の草分け的存在であり、教室開設は昭和50年代のまだ外国人を見ることさえ珍しかった時代の出来事だった。LL教室が革新的であったのは、「英会話」に主眼を置いた教室であった点だろう。それまでの当地の英語教育は、いわゆる受験英語か、英語が堪能な個人が手がける小規模なものであった。しかし、LL教室は、主に子供に「会話」や「発音」を学ばせることを目的としており、小学生がこぞって黄色いLL教室のかばんを持って小石川書店に通っていた。今と違って、ネイティブの先生が教えてくれるわけではない。子供たちは、カセットテープを聞いてネイティブの発音を勉強した。よくできる生徒は、ハワイに研修に行けたという。当時としては、随分すごいことをしていたと改めて感じる。
その小石川書店に向かって左隣にあったのが、カレーの名店「ミスミ」である。この店は、秩父の人の間でいまだに話題になる店である。「ミスミのドライカレーはうまかった」「カツカレーがまた食べたい」と言う話を聞く。当時としても相当お手ごろな価格でカレーを提供していた。一時、矢尾の下辺りに分店を構えていて、そちらでは10倍カレーとか、そういうものを出していた。「道楽でやってます」と良く店主は話していたが、もう一度食べてみたい味である。
秩父市全体の高齢化とともに、東町商店街の店主の高齢化も進んでいるという。以前ほどの賑わいはなくなっても、秩父の中心地の一角であり地域の活性化を語るときに無視のできない街であることに誰の異論もないだろう。昭和の商店街は、歩いて楽しいように構成されている。ここを車で運転しても何も魅力を感じない。ただ狭いと感じるだけである。西武秩父駅から秩父神社を訪問される観光客の方は、ぜひこの町をぶらっと歩いてみてほしい。何十年も前に自分がタイムスリップしたかのような懐かしい感覚に浸れるはずである。

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