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カツ丼の究極形~秩父 安田屋のわらじカツ丼 [観光]

 秩父を訪れた人を食事に誘うと、「是非、蕎麦が食べたいですね」といわれるが、そんな時に「もしかして、カツ好きではないですか?もしそうなら、究極的に美味い店がありますよ」と紹介するのが安田屋のわらじカツ丼である。
 カツ丼というのは、全国的には卵でとじた煮カツを丼の上にかけたものと相場が決まっている。しかし、秩父にはそうした一般的なカツ丼のほかに「わらじカツ丼」と称される、ご当地B級グルメが存在する。わらじカツ丼は、煮カツを使わない。揚げたてでジュウジュウいっているカツを、特製の甘辛いソースにくぐらせて、熱々に炊き上がっているご飯の上に載せて出されるという、カツ好きにとってこれほどの幸せは無いのではというほどの逸品である。「わらじ」の由来は、そんなカツが丼の上に2枚載っていることから来ているらしい。2枚といっても、1枚で丼を覆いつくす大きさなので、2枚目は、カツどんの蓋からはみ出してしまう。これも、カツ好きには堪えられないボリュームといってよい。
 カツ丼を食べたいと思うときに、ふと頭をよぎるのがカツの肉質である。なかにはカツの肉質が悪い店もあり、脂身を衣で揚げた様な代物であったり、衣ばかりで薄っぺらい肉が申し訳程度に入っているだけだったりすることがある。また、煮カツが前提になっているので、揚げたてのものを使う必要が必ずしもないため、時間短縮のため既に揚げてあるものを注文時に煮カツにするというお店もあり、結構あたりはずれが大きい丼なのだと個人的には思っている。しかし、カツ丼好きが居る背景には、こうしたカツ丼がある一方で、きちんと作っているお店のカツ丼は信じられないほど美味かったりするので、リスクをかけても注文し、時に落胆してしまうこともあるのである。
 しかし、安田屋のわらじカツ丼に関しては、こうした心配は一切無用である。何しろ、安田屋には、わらじカツ丼しかメニューが無い。「カツ定食」さえやっていないし、「ひれカツ重」などという、リスク回避をしたい人のための代物もない。直球勝負「わらじカツ丼」だけ。あとは、カツの枚数を2枚でなく、1枚にするか、特注で3枚にするかの違いだけである。逃げ場をなくしてこれ一本で勝負することは、よほどの自信が無ければできない。しかも、通常のカツ丼を装飾する「卵やたまねぎ」が存在しない。シンプルな構成は、それぞれのパーツが一級品でなければ料理として成り立たない。その典型例は「寿司」であろう。このカツ丼は、寿司のようなシンプルな成り立ちでありながら、卵とじのカツ丼をはるかに上回る美味さを実現させた、まさに究極のカツ丼といえる。しかも、揚げたてをソースにジュウジュウ言わせながらくぐらせて、カリッとした食感を残しながら、甘辛い独特の味付けをしており、食べた瞬間に「うまい!」と思わずいってしまう。
 わらじカツ丼の面白いところは、「わらじ」の形状そのものに、カツに一切包丁を入れていない点である。そのまま齧り付く。丼を覆いつくすほどのカツに、齧り付くのだ。この醍醐味は、味わったものでしかわからないだろう。肉は、脂身がきれいに取られ、たたいてやや薄めに伸ばしているので簡単に噛み切れる。女性などは、最初は「え?2枚!」といって躊躇されたりするが、肉はやや薄めでからりと揚がっているので、食べてみるとさくさく行ってしまって「うそ!ぜんぶたべちゃった!」というようなことは結構ある。
 地元の人は、丼の蓋をあけると、1枚目のカツを丼の蓋に載せる。これをつまみに、一杯やるのである。そして、もう一枚で丼を平らげる。一枚で十分に丼として成立するだけのカツを2枚つけているところが、このカツ丼のすごさである。しかも、カツ2枚入りで900円という、涙が出るほどの値段設定だ。東京の小洒落た店であれば、1500円と言われても払ってしまうのではないかというほどの味・ボリュームである。
 安田屋は小鹿野町に本店、市内日野田に支店がある(ちなみに、小鹿野店のわらじカツ丼は800円。日野田店は900円だが味噌汁がついてくる)。小鹿野町の本店は、隠れた名店としてテレビで紹介されたり、バイクのツーリングでここを目指す方々も多く居ると聞く。一方の日野田店は、市内の便利な場所にあるので、地元の人から高く支持されている。ただし、駐車場は数台しかなく、お店もさほど大きくない。車で来ると注意していないと通り過ぎてしまいそうな、昭和レトロを感じさせるひっそりとした店構えで真面目な商売をされている。両店のタレの味付けは、姉妹店でありながら長い年月の間に徐々に変化し、今ではやや違ったものになっている。両方のお店を訪れて味の違いを確認するのも面白い。
 あまりに混んでいるときは無理かも知れないが、お弁当やカツのみの販売もしてくれる。これから、秩父は芝桜シーズンを迎える。日野田店なら、西武秩父駅から歩いてもいける距離だ。羊山で芝桜を眺めながら、安田屋のわらじカツ弁当というのもまた乙なものかもしれない。
 

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